さて、これまで、介護施設経営の3つの立場と希望について、話を進めてきました。簡潔に3つの立場と希望を整理してみましょう。

まずは、入居者の立場
 ・ 「よいサービスを受けたい」に尽きると思います。
 ・ 介護サービスですから、よいサービスとは、その入居者のために必要と定めた介助が、
   間違いなく提供されることです。これが良いサービスの必要条件だと思います。
 ・ 「寄り添う介護」の意味することが、入居者の気持ちを配慮した介護だとすれば、
   それは、入居者満足の十分条件となるでしょうが、必要条件が満たされなければ、
   「不満」や「苦情」となるに違いありません。

更に、入居検討者の希望を加えれば、
 ・ 入居する前に、よいサービスかどうかの判断が出来る情報開示をして欲しい。
と言うことではないかと思います。この入居検討者の問題は別に取り上げることにして話を進めます。

次に、介護スタッフの立場です。
 ・ 入居者に喜ばれる仕事がしたい。個別ケアはもちろんのこと、例えば、たまには
   ご入居者の希望を聞いて、散歩や買い物の付き添いもしたい。
 ・ そのためにも、無理な働かせ方を放置するようなことはしないで欲しい。
 ・ どんな努力をしたらキャリアを積むことができるのか、そして給与が上がるのか
   将来の展望が持てたら嬉しい。
など、期待は「働きがいを持てる職場」につきると思います。もちろん、そうなるためだったら、改善活動などの努力も怠らないと思います。

最後に、経営者の立場
 ・ 持続可能な経営をしたい。人件費単価の上昇や長期修繕を織り込んで成立する
   中長期経営計画をつくりたい。信じるに足る経営計画をつくりたい。
ということでしょうか?他にも法令遵守は当然のこととして、評判の良い施設になりたい。そして、将来も満室を維持したいなどの希望もあるはずです。

 以上の三つの立場の希望は、それぞれの立場の持つあるべき姿とも言えるもので、決して否定されるものではありません。それぞれの希望が共に実現されることが理想です。それを「三方よし」と言っています。「三方よしこそが継続する努力の方向だ」と言うのが我々の主張です。

 一方、持続的な経営をするために、「スタッフの過剰配置をやめ、効率を追求しよう」と経営者の立場が、その実現手段に言及した途端に、また、一方的な負担を求めるのかと、現場のスタッフ側には緊張感や嫌悪感が走ります。冷静に考えれば、過剰配置によってコスト増を招き、一人当たりの付加価値を減らすことは好ましくないことと判るはずですが、「効率化=現場の負担増」というリスクに反応してしまう気持ちもよくわかります。

 従って、「三方よし」の実現に当たっては、(1)解決手段をきちんと示し、努力の成果を見えるようにすること、(2)何よりも、経営者も管理者も現場のスタッフも話し合いによって、相互の信頼を築いて行くことが、不可欠だと思います。

 「三方よし」の解決手段は次回に譲りますが、「立場の対立が起こったら、より大きな器のなかで解決する」ことがマネジメントの基本です。「より大きな器」とは、「大目的」とも言います。ここで整理したそれぞれの立場の希望が活かされて初めて、「少子高齢化社会の到来にも安心の介護」という社会的使命が果せるのだと思います。